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 日本国内ではあまり知らないが、世界には実在した人物の名前が由来になった地名が少なくない。中国の都市なら何処にでもある中山路は孫中山(孫文の号)に因んだものだし、インドの都市で頻繁に見かけるMGロードは、マハトマ・ガンジーの名が由来になっている。
 国名で真っ先に思い浮かぶのは、アメリゴ・ヴェスプッチのアメリカ。新大陸の名称そのものがこの人から採られたらしいが、自由と平等の国を代表するようなアメリカの国名が、人名から採られたのは意外な気もする。アフリカのケニアの国名が初代大統領のケニヤッタから採ったというのは、国の誕生という点で示唆に溢れている。民主主義全盛の現代の尺度には合わないが、国家の始まりが私有地からという古代からの発想を、人類発祥の地アフリカの新興国が証明してくれた気がする。因みにアフリカにはリビングストンやビクトリアなど、旧宗主国(主に英国)の人名から採った地名が少なくないが、こちらは先住者の存在が目に入らない入植者の発想という点で興味深い。

 よそ様の国の地名の由来が何であろうと異議を唱える立場にないが、慣れ親しんできた呼称が変更されると、違和感が立ち上がってくることがある。かって旅したボンベイがムンバイになり、マドラスがチェンナイになった時は流石に面喰い、慣れるのに時間がかかった。同じようにビルマがミャンマーになりラングーンがヤンゴンになった時も強烈な違和感があったが、僕が初めて彼の国に行った時は既に変更されていたので、新しい響きに間もなく慣れた。新地名に慣れるかどうかの見極めは、教科書などで覚えた学習結果より、旧地名に対する実体験の有無が大きな部分を占める気がする。

 そういう意味では僕には旧名時代の実体験がなく、本来なら違和感なく受け入れることが出来る筈なのに、なぜか全く馴染めない都市名がアジアに一つだけある。由来が臨場感のある人名だけに余計そう感じるのかもしれないが、加えて変更された理由が、僕には如何にも胡散臭く感じられるのもある。
 東洋のパリと謌われたベトナム最大の都市。これが褒め言葉に為ること自体がアジア人全体に蔓延る感性といったことはともかく、今回はサイゴンからホーチミンに改称された経緯について考えてみたい。もちろん何時もの如く空想ですよ。

img573.jpg Can Tho/Vietnam 2008



 ホーチミンという人の性格や人格は知らないが、伝統ある呼び名を変更してまでも、自分の名前が地名に使われることを望んでいたとは思えない。本人不在の決定なのは間違いなく、これが僕にとってホーチミンシティという呼称に馴染めない最大の理由。ホーチミンと改称させたのは、ベトナム戦争で勝利した北側のメンバーが基となったハノイ政権だが、ホーチミンとベトナム戦争に直接の繋がりはない(ホーチミンがベトナム戦争を指揮したわけではないという意味)。

 ホーチミンが現代のベトナム国民全般に慕われていることは事実だが、氏が指揮した対仏戦争の大半は北部で行われたものである。ホーチミンがフランスからの独立に尽力したのも事実だが、その頃の氏に対する評価は、北と南では温度差があったのではと思っている。つまり植民地ゆえに貧しかった印象のある北では高く、植民地ゆえに豊かだった印象のある南では、それほどでもなかったのではという気がする。あまり語られていないようだが、どうもそんな気がしてならない。

 サイゴンをホーチミンに改称した狙いには、国際的には知名度抜群の敵地サイゴンという響きを葬り去るという感情的なことと、統一後のナショナリズムの支柱として故人ホーチミンの存在を必要とし、その威光を強化する政治的な思惑があったと思う。仮にベトナム戦争で南側が勝利していたら、ホーチミンという人は歴史上の人物として名を遺したとは思うが、国父という位置付けにはならなかったような気がする。真新しいことではないが、政治史上での偉人など、時の権力の評価でどうにでもなる。


img687.jpg
Dien Bien Phu/Vietnam 2008

img625.jpg DMZ/Vietnam 2008



 ではバックパッカー歴四半世紀の旅人の立場から。
 実情はどうかというと、ベトナムを個人旅行した人なら気づいたと思うが、サイゴンに対するホーチミンという呼称は、地元の人には全く根付いていない。ガイドブックなどの影響でホーチミンシティと呼ぶ外国人旅行者は多いが、この街に向かうバスなどの行先表示は、依然としてサイゴンになっている(プノンペンなどカンボジアからの国際バスなどは別)。サイゴンの呼び名がホーチミンに変わったことを知ったところで旅には殆ど影響しないが、ホーチミンシティの元々の呼び名はサイゴンという予備知識がないと、現地の人との会話など旅先では困難に当たる。貴方がローカルな交通手段を好む個人旅行者なら、初めからサイゴンと覚えた方が早い。

img587.jpg 
Saigon/Vietnam 2008
 
 時代の変化に伴って地名が変わることには全く反対しないが、世界には日本の南アルプス市や中国の香格里拉(シャングリラ)市など、思いっきり民度を反映しているような変更例がある。ホーチミンという人名には歴史や情緒を感じるが、ホーチミンという都市名には、民度は関係ないが無機質で人工的な響きしかしない。
 政治家が都市の発展に寄与することはあるが、商業都市サイゴンの発展と人物ホーチミンは何の関係もない。サイゴンの歴史の詳しくは知らないが、入植者たる華人とフランス人に依るところが少なくなく、それに土俗的な先住者の文化が加わり、一種のクレオール都市として歴史を刻んで来たと思う。

 ホーチミンという人物の評価と、その名前が都市の名称に使われることは全く別ですね。文化的な背景が微塵もなく、政治意図が丸見えの地名変更(これはこれで文化だが)が、如何に味気ないかという典型のように思う。早くサイゴンに戻してよ。

img597.jpg
Saigon/Vietnam 2008
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