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 1990年のゴール。スリランカの南端に位置し、最近では2004年の津波で壊滅的な打撃を受けた場所としても知られるようになった。

 上の写真は近郊のビーチで出会った中年達。下は同じビーチにいた若者達。スリランカの人達は、どこまでも明るかった。

 しかしゴールと聞けば、僕には全く別のことしか思い浮かばない。あれから二十余年。もう喋ってもいいでしょう(今回も、ちょっとアレな話です。当たり前だが、写真と本文は一切関係ありません)。



 目の前が真っ暗になるのを感じながら、冷静になって辞書を引いてみた。"gonorrhea" 発音はゴノレアでいいんだろうか。しかし通じるのか。通じなかったら、どうやって説明しようか?

 潜伏期間は二週間と聞いた覚えがあった。ということはあれか? いやあれか? いや、犯人探しなどどうでもよい。とにかく医者に診てもらうことが先決だ。

 せめて田舎町のゴールではなく、首都のコロンボで発症してくれればと思ったところで始まらない。タイからスリランカに入って一週間、ゴールに来て二日目のことだった。

 ロンプラ(持参していたガイドブック)によると僕が泊まっていたホームステイは、この街の元市長さんが経営しているとのことだった。他の家を見たことがないので何とも言えないが、家の中は広く、重厚感のある家具があるなど上流家庭の雰囲気そのものだった。

 よりによってこんなアットホームな環境でと思ったところで始まらない。とにかく訊くしかなかった。

「こ、この辺りに病院はありませんか?」

 オーナーの息子か孫かは知らないが、大きなソファでゆったりと寛いでいた青年に訊くと、彼は急に真顔になった。

「どうした?」

 一瞬うっと言葉に詰まったが、「腹が…」などと答える。もう最低最悪だ。

 教えられた病院はすぐ見つかった。メインストリートに面した、病院というより町医者といった感じのこじんまりとした建物だった。意を決してスライド式のドアを開ける。そして開けた瞬間、中にいた軽く十人は超える待合い客から一斉に視線が降りかかってきた。駄目だ。ここでは駄目だ。雰囲気は親子連れで賑わう小児科そのものじゃないか。

「弱ったなあ…弱ったなあ…」と頭を抱えながら、日差しの強いメインストリートを再び歩く。自分の馬鹿さ加減がいい加減に嫌になってきた。しばらく歩くと" Clinic"と書かれた貼り紙が目に入った。藁にも縋る思いで貼り紙に記されていた矢印に従い路地に入ると、傍目には民家のような小綺麗な建物に辿り着いた。客がいたらどうしようというのも馬鹿な話で、もうここしかない。

 ブルーの制服を纏った、それはそれは清楚な感じの二人の看護婦が迎えてくれた。そして僕の風貌を認めると、すかさず奥に引き返した。幸い他の客の姿はなさそうだ。

 ほどなくして医師が現れた。鉄人衣笠祥雄さんを想わせる、浅黒く精悍な顔立ちの中年男だった。既に聞いていたのだろう、外人である僕に驚くことなく、「どうした?」という予想通りの展開となった。用意していた返答を、ひとつひとつ区切って口にする。

「アイ…ゴット…ゴノレア…」

「……」

 鉄人ドクターは無言のまま頷き、「待ってろ」という仕草をして奥へ引き返した。そして注射器を手にして現れると、早口の英語で説明を始めた。

"test"という語が聞き取れた。というより、それしか聞き取れなかった。もとよりこちらには異論はない。通じたかどうかはどうでもよく、あとはもう任せるのみだった。これは正確ではないかもしれないが、おそらく何かの処方をする前に、発熱や発作などが起きるかどうか確かめるためだったと思う。

 無事"test"をクリアし問診となった。いや、問診というより原因究明のための尋問といった感じで、痛みなど現在の症状より、「いつどこで」が質問の中心になった。この期に及んで隠すことなど何もない。下手な英語を駆使した僕の説明は、ほとんど風俗体験談だった。

「そうだ。タイにはそういう所があるんだ」と、僕の話を聴き終えた鉄人ドクターが、「したり顔」で言った。おや。それは事実だからいいとして。

 そこで僕が、「でもスリランカにもありますよ」と言うと、傍に立っていた清楚ナース二人が突然ムキになって、「わたしたちの国にはそんなのないの」と大きく頭を振った。今度は淋ししツーリスト(僕)がムキになって、「そんなことはない。デリワラに行った時、ジキジキジキジキって声をかけられたぞ」と言うと、鉄人ドクターが手を叩きながら大笑いした。

「そうだ。デリワラにはそういう所があるんだ」とやっぱり、「したり顔」で言いながら(デリワラ地区はコロンボ南郊にある住宅街で、当時いくつかのゲストハウスが集まっていた。街娼の姿もチラホラあり、歩いていると、「ジキジキ、ジキジキ」と声をかけられることもあった)。

 内服薬を貰い帰路に就く僕は、さぞ晴れやかな顔をしていただろう。症状は間もなく改善し、間もなく旅行再開となった。これもまた、「案ずるより産むが易し」ですかね。
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